― 特許の話より、先に語るべきこと ―

なぜか、響かない技術の話
「当社はこの技術で特許を取りました」
「他社にはない独自の構造なんです」
-技術に自信を持つ経営者ほど、こう語りがちです。
けれど、相手の反応は薄く、「へぇ、すごいですね」で終わってしまう。
このような経験、ありませんか?
実は、「特許がある」「独自性がある」という事実と、「価値が伝わる」ということは、まったくの別物です。
取引先も、金融機関も、投資家も、聞いているのは、その技術が
「何のためにあるのか」「どんな良い変化を生むのか」。
つまり、【“機能”ではなく“意味”】を知りたいのです。
「軽いです」では、価値は伝わらない
たとえば、ある製品に「他社より10%軽い」という特徴があったとします。
これは確かに技術的な強みかもしれません。しかし、それだけでは相手の心には残りません。
むしろ、
「この軽さで作業者の負担が減る」
「作業効率が上がり、現場の疲労感が軽くなる」-
そう語った方が、相手は“自分ごと”としてその技術の意味を受け取ってくれます。
特許は、技術そのものを守るための制度です。
けれど、それだけでは技術の価値は伝わりません。
その価値を相手に“感じさせる”役割を担うのが、ブランドです。
ブランドとは、技術によってもたらされる変化や意味を、相手に伝えるための“価値のかたち”なのです。
技術とは、未来をつくるための素材にすぎません。
その素材をどう活かせば、誰のどんな困りごとを減らせるのか。
それを経営者自身の言葉で語ったとき、ブランドの“芯”が生まれます。
技術の魅力は、「権利化した」だけでは伝わりません。
どんな価値を、誰に届けたいのか。
その問いに向き合ったとき、特許は「意味のある武器」として機能し始めるのです。

町工場の“伝え方”改革
ある町工場では、新しい加工技術で特許を取得し、「これを武器に営業強化を」と考えていました。
しかし、現実には反応が薄く、価格交渉ばかり。
特許があることを伝えても、「それが何の役に立つのか」が伝わっていなかったのです。
そこで、こう問いかけました。
「この技術によって、どんなお客様の困りごとが減るのでしょうか?」
「実際の現場では、どんな変化が起きているのですか?」
現場から出てきたのは、こんな声でした:
- 「独自の段差逃がし形状」で、従来は専用治具が必要だった製品が“汎用治具”で加工できるようになった。
⇒ その結果、段取り時間が1/3に短縮され、急ぎの注文にも即対応できるようになった - 加工の中心がブレにくい構造で、小ロットでもリピート品との寸法差がほぼ出ない
⇒ 顧客からは「いつ頼んでも品質が変わらない」と信頼されるようになった
こうした「現場のことば」で語るようになったことで、見積相談が増え、「一緒に開発したい」という声も届くようになったのです。

技術の話は“あとから”でいい
技術力がある会社ほど、“技術上の工夫”や“それが特許で守られていること”をアピールしがちです。
けれど、本当に伝えるべきなのは、
その技術で「誰のどんな困りごとを、どう解決するか」です。
つまり、語るべき順番はこうです:
先に「使う人の価値」を語る
その価値を支える「技術の仕組み」を紹介する
必要に応じて「特許で守っていること」を伝える
この順番を意識するだけで、相手の納得度も反応も大きく変わってきます。
“伝える順番”を整えること。――それが、ブランドづくりの第一歩なのです。
まとめ:特許の前に、語るべき「意味」がある
「その技術、なんのためにあるのか?」
- この問いに答えられるとき、ブランドは動き出します。
特許は、価値を守るためのツールにすぎません。
その前に、経営者が語るべきなのは、その技術によって、誰にどんな未来を届けたいかという“意味”です。
小さな会社こそ、そこを言語化できたとき、ブランドは強くなり、技術も知財も「生きた武器」として活用できるようになります。