― 表面的な症状ではなく、つながりをとらえる ―

「問題が多すぎて、どこから手をつけていいか分からない」と感じたことはありませんか?
「現場が忙しいのに儲からない」
「人手不足もあるし、設備も古いし、営業もうまくいっていない」
―こうした声は、中小企業の現場では決して珍しくありません。
けれど、目の前の問題を一つひとつ潰していくやり方では、
根本的な改善につながらないことが多いのです。
実は、表面化している問題の多くは、“ある構造”でつながっている結果。
だからこそ、経営全体の“つながり”を整理して見る視点=構造を見る視点が重要です。
“症状の山”ではなく、“問題のつながり”を整理する
経営者が日々目にしているのは、あくまで「現象」です。
- 残業が多い
- 不良品が減らない
- 営業が受注を獲得できない
- 社員のモチベーションが低い
これらは一見バラバラのように見えて、
実際には“共通の原因”や“影響の連鎖”の中で起きていることが少なくありません。
たとえば、こんな悪循環に心当たりはありませんか?
- トラブル対応が増えて、マネージャーが現場に張り付いている
- 部下の育成が後回しになっている
- 部下の育成ができず、ベテランの“できる人”への依存が進む
- そのベテランが異動・退職すると、仕事にばらつきが生じる
- 取引先から「最近、製品の品質にムラがある」「人が変わると品質も変わる」などと言われるようになる
- 結果として、「誰が対応するかで品質が変わる会社だ」と見なされ、今後の取引に不安を持たれてしまう
このように、「ベテランに頼るしかない」状態が続いていると、
一見まわっているようでも、人が変わるたびに品質や納期が不安定になり、現場は常に綱渡りになります。
事例:問題のつながりを整理したことで意思決定が変わった製造業
ある部品加工会社では、社長がこう話していました:
「利益が出ない、人が辞める、営業が弱い――全部が悪循環になっている気がするけど、どこから手をつけたらいいか分からない」
そこで、売上構成・案件ごとの粗利・社内の情報共有・業務フローなどをヒアリングし、
問題の“つながり”を1枚の図にして整理しました。
すると、以下のような構造が見えてきました:
- 営業は案件数を優先し、安価で納期の厳しい仕事を多く受注
- 現場はその対応に追われ、改善活動は後回しに
- 加工精度や品質は属人化し、標準的な強みが育たない
- 営業は「何が自社の強みか」が語れず、また安価な仕事を取ってくる
この“つながり”を可視化したことで、社長はこう決断しました:
「まずは受注基準と営業評価を見直そう。
無理な仕事を減らせば、現場の改善に手が回る。強みも言語化できるはずだ。」
経営の問題は、個別に見ると複雑でも、構造で見ると優先順位が見えてくる。
そのことを、社長自身が体感した瞬間でした。

対症療法より、“構造を見る視点”が効く
経営改善というと、「5Sをやる」「KPIを導入する」「仕組みをつくる」など、
“方法論”から入ることが多いのですが、
それはあくまで構造が見えたあとの処方箋です。
まず必要なのは、こうした問いです:
- 「目の前の問題は、どこから始まっているのか?」
- 「部門同士がどう影響し合っているのか?」
- 「一番の“詰まり”は、どこにあるのか?」
こうした問いに向き合うことで、
やるべきこと、後回しにしてよいこと、“今やらないこと”が見えてきます。

まとめ:「構造が見えない経営」は、常に後手に回る
経営の迷いは、“優先順位”がつけられないことから始まります。
そして、優先順位がつかないのは、“つながりの全体像”が見えていないからです。
経営者が迷っているとき、
必要なのは情報の追加ではなく、“構造の整理”です。
目の前の現象に振り回されず、「どうつながっているか」を捉える視点。
それが、次の意思決定を変え、経営を一歩前に進めてくれます。