― 製造業のための知財再定義 ―
「うちは開発なんかしてないから、知財は関係ない」と思っていませんか?
「知財って、特許とか発明の話でしょ」
「うちは研究開発なんかやってないし、関係ないですよ」
中小製造業の経営者から、よく聞く言葉です。
たしかに、かつての知財は「研究成果を守る」というイメージが強く、
開発部門がなければ無縁だと思われても無理はありません。
しかし今、知的財産(=知財)の位置づけは変わりつつあります。
知財は、単なる“守る仕組み”ではなく、
「自社の価値を伝え、信頼を築くための戦略的な道具」として再注目されています。
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「現場の工夫」は知的資産。その一部が知財になる
たとえば、あなたの会社の中にこんなものはありませんか?
- 段取り時間を減らすために現場で工夫された治具
- お客さんから「この形がありがたい」と言われた仕様
- 他社では真似できない“精度とコストの両立”
- 熟練社員の経験が詰まった加工条件の判断基準
これらはすべて、会社の価値を支える「知的資産」です。
「知的資産」とは、形にはなっていなくても、事業を支える“目に見えない力”のこと。
技術的な工夫、ノウハウ、ブランド、信用、社員の技術力などが含まれます。
このうち、法律で権利として保護されるものが「知的財産(知財)」です。
たとえば特許、意匠、商標、著作権などがそれにあたります。
知的資産は広く、知財はその一部。
「知的資産を棚卸しすること」が、「どこを知財として活かすか」の第一歩なのです。
事例:現場発の工夫が知的資産として価値を生み、知財として活かされた例
ある金属加工会社では、研究開発部門はなく、製造と品質管理が中心でした。
社長も当初は「うちに知財なんて無縁だと思ってた」と話していました。
ところが、現場ヒアリングの中で、
ベテラン作業者が「段取りを15分で終わらせる位置決め治具」を独自に考案し、
現場全体に展開されていたことが判明しました。
この仕組みは、まさに現場から生まれた“知的資産”です。
会社はこの治具について意匠出願を行い、
営業資料にも「自社独自の段取り短縮システム」として掲載。
すると販路開拓の場面で、こうした反応が返ってきました:
「こういう改善をきちんと“形にしている”会社は信頼できる」
「うちでもぜひ活かしたい。見学に行っていいですか?」
このように、現場に埋もれていた知的資産が、知財化によって“伝える力”を持ち、
取引機会の拡大につながったのです。
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知財の役割は、「守る」から「伝える」へ
従来、知財は「他社に真似されないように守るための仕組み」でした。
しかし今は、「違いを明確にして、価値を伝える」ことこそが重要です。
たとえば、こんなステップで活用できます:
- 棚卸し:現場や設計、営業などにある“自社らしい工夫”や“選ばれている理由”を洗い出す
- 整理する:それらについて「他社との違い」や「誰にとっての価値か」を明確にする
- 知財化を検討する:
- 技術や形状 ⇒ 特許・意匠出願
- 呼び名やブランド ⇒ 商標出願
- ノウハウ ⇒ 社内マニュアル化+秘密保持契約の整備 - 営業や採用で活用する:営業資料や提案書、Webサイトなどで「自社の違い」として明示する
このように、知的資産の中から
“戦略的に見せたい部分”を知財として整えることで、信頼される会社づくりにつながっていきます。
まとめ:「開発してないから関係ない」は、もう古い
知的資産を棚卸し、その中から“伝えるべき強み”を知財にする。
それが、今の中小製造業にとっての現実的な知財活用です。
開発部門がない会社でも、現場にこそ価値の源泉があります。
それを見える形にして伝えるために、知財は活用できます。
「うちは研究してない」「出願なんて無理」ではなく、
「うちならではの工夫や判断を、ちゃんと伝わる形にしていく」―
それが、今の時代の“ちょうどいい知財戦略”です。
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