-値付けの前に原価の「構造」を見る-
「材料費は上がった。残業も増えた。だから単価を上げたい。」
そう考えて交渉しても、なぜか手元に利益が残らない。むしろ受注が増えるほど現場が疲弊していく。中小製造業でよく起きる状況です。
ここで問題になるのは「値付けのテクニック」ではありません。
多くの場合、利益を削っているのは、材料費そのものより、段取り・手戻り・例外対応・社内調整といった「工程の乱れ」と「不確実性」です。これが放置されると、単価を上げても粗利は安定しません。
この記事では、利益が残る見積りに変えるために、
①粗利が残らない案件の共通点(段取り・手戻り等)
②案件別粗利×工程の見える化
③断る/条件変更まで含めた見積り運用
を順に整理します。
1. 粗利が残らない案件の正体は「段取り」と「手戻り」に出る
粗利が残らない原因は、材料費や加工時間だけでは説明できません。次の『見えにくいコストが』効いています。
(1) 段取り替えの頻発(準備時間が吸われる)
少量多品種で、実加工より治具交換や条件出しに時間が取られる。
この「準備時間」を見積りに織り込めていないと、受注が増えるほど粗利が残りにくくなります。
(2) 手戻りの常態化(不確実性が原価を押し上げる)
図面が曖昧、仕様変更が当たり前、後出しの検査基準。
これは、見積り段階での前提条件・変更ルールが合意されていないことが原因で起きやすい。手戻りが増えるほど、利益は静かに削られます。
(3) 例外対応の積み重ね(工程が乱れる)
特別梱包、特急対応、追加資料、特別検査。
一つひとつは小さく見えても、積み上がると段取りと手戻りを増やし、粗利を消していきます。
(4) 社内調整が膨らむ(見積りに載らないが確実に時間を食う)
営業と現場の擦り合わせ、品質・生産管理とのやり取り、確認の往復。
原価計算から漏れがちですが、経営資源を確実に奪います。
結論はシンプルです。
粗利が消えるのは、「材料」が原因というよりも、段取り替え・手戻り・例外対応が重なって、原価が膨らむためであることが多いです。だから、値付けの前に「どのように粗利が削られるか」を確認する必要があります。
2. 「どこで消えているか」をあぶり出す、最小限の可視化
精緻な原価管理システムは不要です。まずは、直近の10案件だけで構いません。案件ごとに、次の項目をざっくり書き出します。
- 受注金額(売上)
- 直接材料費・外注費
- 加工工数(機械・人)
- 段取り時間(準備にかかった時間)
- 手戻り時間(やり直し、再検査、追加対応)
ここで重要なのは金額そのものより、売上に対する「段取り+手戻り時間」の比率です。比率で見ると、粗利を削る要因が浮かびます。
たとえば、次の問いが立ち上がります。
- 見積りでは段取り1回の想定なのに、実際は3回起きていないか?
- 仕様確認が甘い案件ほど、手戻り時間が増えていないか?
- 特急が入る案件ほど、他案件の段取りが崩れていないか?
この要因が見えれば、取引先と交渉すべき論点は「単価」そのものではなく、取引条件(前提・変更・例外の扱い)だと分かります。
3. 見積りを「価格提示」から「条件合意」の場に変える
原価の構造の見える化ができたら次は運用です。見積書を、単に「いくらです」と伝える紙から、
「この条件なら、この価格です」と線を引く道具に変えます。
(1) 認識ズレを防ぐ「前提条件」を明記する
利益を守るために、見積書に次を入れます。
- 図面・仕様の確定タイミングと、確定後の変更費用の扱い
- 合格判定となる検査基準(合否条件)の明確化
- 想定段取り回数と、超過時の追加料金/再見積り条件
- 特急対応・例外対応の別料金(または対応範囲)
前提が書かれていないと、手戻りが「無料サービス」として吸い込まれます。前提を固定すると、利益が守られます。
(2) 交渉を「お願い」ではなく「条件設計」に変える(A/B案)
単なる値上げは反発を招きます。一方で、選択肢を示すと「相談」になります。
- A案(納期優先):特急料金+段取り増分を反映した価格
- B案(価格優先):ロットをまとめ、納期に余裕を持たせる条件で価格を抑える
- C案(簡略化):検査・書類・梱包を簡略化し、その分コストを下げる
相手が選べる形にすると、「価格」ではなく「条件」の合意に進みます。
(3) 「断る/条件変更する」基準を社内で持つ
一番苦しいのは、断れないまま、構造的に粗利が残らない案件が積み上がることです。
そこで、社内で線引きを持ちます。
例)
- 段取り+手戻り比率が一定以上で、条件改善も拒否される案件は見送る
- 図面・検査基準が確定しない案件は着手しない(確定が条件)
- 特急対応は、既存案件への影響を踏まえた条件(料金・納期・対応範囲)が合意できない限り受けない
「断る」は取引否定ではありません。利益が残る条件に整えるための経営判断です。
まとめ:利益を守るのは「値付け」ではなく「構造」と「運用」
利益が残らない原因は、技術力不足ではなく、原価の「構造」を見ないまま見積りを運用していることにあります。
- 粗利を削る「見えないコスト」を特定する(段取り・手戻り・例外・調整)
- 比率で可視化し、「どこで削られているか」を掴む
- 見積りを条件合意の道具に変え、条件変更・見送り基準まで運用に入れる
まずは直近10案件で十分です。段取りと手戻りの時間を棚卸ししてみてください。そこに、利益が残る見積りへ変えるための「真の論点」が必ず出ます。
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